スペイン巡礼 フランス人の道 30代ひとり旅

【女性ひとり旅】32日間かけてスペイン巡礼フランス人の道を歩き、マドリッドで「暮らすように旅をする。」を実践。質問あれば、お気軽にどうぞ!

【1日目】スペイン巡礼 〜Roncesvalle

カミーノ・デ・サンティアゴ 巡礼1日目

 

初日。

5時半に起床し、予約しておいた朝食を6時半にとるために下のダイニングにおりていくともう既に何人かのグループが朝食を食べていた。
 
クロワッサンにソーセージ、フルーツ。次に何時頃食事が取れるかわからないから、とりあえずたくさん頂いておいた。
 
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同じテーブルで食事をとった2グループは偶然にもアメリカ出身だった。峠越えを目指すグループと、迂回してハイウェイを行くグループ。まったく想像もつかないお互いの行程に、不安と興奮でいっぱいだった。
 
先に失礼して、出発の準備に取り掛かった。「早く出発しなくちゃ、夕方までに辿りつかない」「宿がなくなったらどうしよう」と、下調べしすぎて余計な不安だらけだった。
 
宿を出かける直前、同じ宿に泊まっていた女性と一緒に出発することになった。”町を出てから山の入り口がわかりにくい”と巡礼事務所でもらった地図に書いてあったし、旅のお供がいる方が安心かもしれない、と思った。
 
6時半、宿を出ると外は案の定、雨だった。
 
中世の街並みを残しているかのような石畳の道を下り、時計塔がある門を潜ると、山へ向かう車道に出た。町を出た途端にゆるい上り坂が始まり、ここから頂上までひたすらの登りが続くのだった。
 
霧雨のような雨が降っていた。道も草木も雨に濡れて青々と生き生きしていて、そこにある風景はまさに日本の田舎の村と変わらなかった。空気もしっとりと、本当にまるで日本の6月を田舎で過ごしているかのような気分だった。
 
 
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しばらく車道が続き、いよいよ傾斜もきつくなりはじめた頃、周りは広々とした牧場のような地帯になってきた。ポツポツとあった家もなくなり、完全に山を登り始めた。急な斜面に無理やり作ったヘアピンカーブのコンクリートロードをひたすらに折り返し折り返し登ってゆく。気づくと折り返し歩いてきた山下の道に、雲がかかっているのが見えた。知らぬ間に、雲の中を歩いていたようだ。
 
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峠越え、最後の休憩所

 

そして、ついに道は”牧場の中”に入った。コンクリートだった道路も舗装されていないぬかるんだ泥の道になり、ついには家畜の糞だらけになった。ここからの道が本当にきつかった。傾斜もきついが、何しろ足場が悪く大きな石が多くて歩行が安定しない。そして糞尿のものスゴイ悪臭。息が切れ切れに、時に這いつくばって登る人間たちを、柵の向こうの牛たちがのんびりと眺めていた。時々尻尾を左右に振るが、私たちに対して興味があるようではなかった。
 
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多めに休憩をとりながら進んだ。他の巡礼者たちも、カーブのたびに水をのみ、下を眺めては、また上を眺め、「あとどれくらいこの道が続くんだろうか」と途方にくれたりしていた。
 
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出発してから3時間後、最初で最期の休憩地点のOrisson村についた。バーを併設したアルベルゲになっており、峠を越える巡礼者にとっては最期の水分補給地点となっていた。体力に自信のない人はここのアルベルゲに泊まって、翌日一気に峠越えをするそう。アルベルゲはインターネットでも予約が可能(英語サイトあり)だが、常に混んでいるので予約は早めにしたほうがよいとのこと。
 
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宿を一緒に出発した女性と一緒に、気合い入れのコーヒーを飲むことにした。砂糖をいっぱい入れて、糖分を補給。休憩をとっていた5分のうちに、続々と巡礼者が到着し混み合ってきた。つかの間の休息後、峠越えに向けて重い腰を上げた。しかし、わたしたちはバックパックから雨合羽を引っ張り出す必要があった。
 
外は見事に真っ白だった。霧雨も、水滴を十分に感じられるほどの雨になっていた。まさか初日からレインコートを使うことになるとは思ってもみなかったが、これも自分に与えられた試練だと思い有難く受け止めた。初めて使う真新しいレインコートは、自分一人で着ることさえ難しく、早速旅の相棒に助けられ、そして私も彼女のレインコートのボタンをはめてあげた。
 
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予想外の景色
道は、泥んこの悪臭ロードからコンクリートに戻り、引き続きヘアピンカーブが続いた。今まで歩いてきた道が、遥か下のほうに見えた。霧と雨で、あたりが暗くなってきた。このまま峠を越えられるかどうか不安になってきたが、もう最後の村を出発してしまった以上、このまま進んで越えるしかないことは明らかだった。
 
あたりは徐々に高い草木がなくなり、下草が広がる高原のような景色になってきた。霧の中でもわかるほど青い草原の先に、白い雲に覆われた空が広がっていた。もうだいぶ高いところまで登ってきたんだと感じた。道は驚くほどきれいに整備されたコンクリートの道路で、道の先は霧の中に消えて、次にどれくらいでカーブがくるのかわからないほどだった。気づかなかったが、宿から一緒に歩いてきた女性も、いなくなっていた。重いバックパックが肩にのしかかり、肩のじんじんと痛くなっていた。足もクタクタで、気力だけで足を前に出しているようだった。「疲れた」「痛い」と嘆く気力もなくなってきて、ただただ無心で足を前に進めた。
 
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そして巡礼事務所でもらった地図の通り、峠を越えるためにコンクリートの道から右に逸れ、未舗装の道を目指すポイントにさしかかった。霧の中でこのまま見つけられずに迷ってしまったらどうしようと思ったが、なんとか無事に進むべき方向に足を進めることができた。先人の巡礼者たちが道を踏み固めてくれているおかげで、草原の中に草の生えていない巡礼の道ができていた。ありがとう。それに沿って、最後の岩を上り詰めると、「おそらくここが峠のてっぺんではないか?」と思われる地点を通過した。晴れていれば、そこから素晴らしい峠の景色が見えたのではないかと思うが、辺りは数メートル先がもう見えないほどの濃霧。残念だけど、これも試練...と自分を納得させるしかなく、急ぎ足で峠を越えて、下りの道にさしかかった。


「やったー!これで下れる!」と思ったら考えが甘かった。下山といっても、下りだけの道ではなく、時にはまた登り、そして下るといった「山あり谷あり」な下山路だった。雨は心なしか、登っているときよりも強くなってきている気がした。膝を痛めないように、ゆっくり降りようと決めていたものの、やはり「早く降りたい」気持ちが先行して、どうしても急いでしまった。だんだんと、膝の痛みは強くなりはじめていた。どれくらい降ったか、いつ間にかあたりは森林になっていた。紅葉樹の落ち葉がふかふかのナチュラルクッションロードを作ってくれていて、膝への負担をだいぶ軽減してくれた。それでも私の膝は限界にきていたと思う。気持ちは、「早く宿にたどり着きたい」それしかなかった。







究極の選択
宿まで残り5km。そこで「危ないけど近道」「安全だけど回り道」の二択を選ばなければならないポイントに差し掛かった。雨はもう、”土砂降り”という表現に近いほどに強くなっていた。何人かの巡礼者は「近道」を進んでいった。迷ったが、たまたまその場にいた男性が「回り道を行こう」と誘ってくれたので、これも何かのご縁かと思い、彼についていくことにした。たしかに安全な道だった。しっかりと整備されたコンクリートの道路が、山の下の下の方まで続いていた。しかし、かなり長い道のりだということも、山の上からでも見てわかった。たっぷりと水分を含んだトレッキングシューズと限界を越えた膝という最悪のコンディションの上に硬いコンクリートから直に受ける刺激が、最高に苦行だった。途中、山下に雲海が見えた。土砂降りだったが、せめてもの思い出を残そうとカメラを向けた。それからは、もう精神力で乗り切ったとしかいいようがない。「はやく宿につけ」とブツブツ唱えながら、今日の天候に怒りをぶつけるのと同時にストレスも発散した。5kmを進むのに、1時間半以上はかかったんじゃないかと思われる。








やっと見えた修道院の屋根。「とにかくはやく受付したい」という無心の思いで、裏庭から道なき道を進み、アルベルゲの入り口のある棟にたどり着いた。ここの建物はハリーポッターさながらの石造りの重厚な造りで、修道院を改装した200名近くを収容できる大型のアルベルゲだった。多くの巡礼者が峠越えをしてここに泊まるという有名な場所でもあった。寒くて寒くて手がかじかんで、受付で自分の名前が震えて書けなかった。館内は大勢のシニアスタッフがいて、部屋への案内や洗濯ルームの説明など、スムーズに巡礼者をさばいていく。大勢が泊まるといえば「収容所」のようなイメージだったが、数年前に改装されたのか、部屋もベッドもシャワールームもかなりキレイだった。まずは真っ先に暖かいシャワーをあびて、しばらくベッッドの寝袋にくるまって、足のマッサージしながら、徐々に「峠を越えた」という実感と達成感が湧いてきたのを覚えている。「やったんだ、ついにやったんだ」とフツフツとこみ上げるものがあり、もはや巡礼が達成できたような気持ちになっていた。まだ巡礼1日目なのである。



食事の前に初めてのミサに参加した。やり方がわからないので一番後ろの方に座り、キョロキョロしながら、座ったり、立ったり、お祈りしたり、”アーメン”と呟いたり、周りの人を見よう見まねで、一通りを体験してみた。途中、教会の女性が袋を持って回ってきて、いくらかの寄付金を入れ、最後に回りの席の人たちと握手をして、終了。特に印象に残ったことはないが、教会内の雰囲気と、美しい装飾やステンドグラスや絵画は素晴らしいと感じた。あとで聞いたところ、巡礼ルートの教会はほとんどがカトリックで、ミサもカトリック方式で行われる。全部スペイン語で行われるところもあるが、英語通訳がいるところもあった。基本的に誰でも参加が可能だそう。




ミサのあと、やっとその日の夕食にありつけた。はじめての”ペリグリノメニュー”(巡礼者専用のコースメニュー)を体験してみた。たまたま居合わせたテーブルのメンバーと会話しながら、ワイン、前菜、スープ、メイン料理、デザートをいただいていく。朝食から何も食べてなかったので、本当にありがたみを感じる食事だった。疲れた身体にワインが回りすぎないよう気をつけながら、巡礼1日目が終わったのだった。

 

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